誰もが働きやすい職場づくりに向けて
企業には、障害の有無にかかわらず、誰もが能力や適性に応じて働くことができる環境を整える社会的責任があります。
厚生労働省が公表した「2025年(令和7年)障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業における障害者雇用数は70万4,610人となり、22年連続で過去最高を更新しました。一方で、法定雇用率を達成している民間企業の割合は46.0%にとどまっており、引き続き多くの企業で計画的な対応が求められています。
さらに、2026年7月1日から、民間企業の障害者法定雇用率は現在の2.5%から2.7%へ引き上げられます。これに伴い、障害者雇用義務の対象となる企業も、常用雇用労働者40.0人以上から37.5人以上へ拡大されます。
本記事では、障害者雇用の基本と、企業が取り組むべき採用・受入れ・定着支援のポイントを解説します。
1. 障がい者雇用率制度とは
障害者雇用率制度とは、一定規模以上の企業に対し、常用雇用労働者に占める障害者の割合を、法定雇用率以上にすることを義務付ける制度です。
常用雇用労働者とは、原則として1週間の所定労働時間が20時間以上で、1年を超えて雇用される見込みのある従業員をいいます。
短時間労働者や障害者である従業員についても、一定のルールに基づき雇用率の算定対象となります。
現在、民間企業の法定雇用率は2.5%ですが、2026年7月1日からは2.7%へ引き上げられます。
その結果、常用雇用労働者数37.5人以上の民間企業は、新たに障害者雇用義務の対象となります。
たとえば、短時間労働者以外の常用雇用労働者が119人、短時間労働者が2人の企業では、次のように法定雇用障害者数を算定します。
(119人+2人×0.5)×2.7%=3.24人
小数点以下は切り捨てとなるため、この場合の法定雇用障害者数は3人です。
現在、法定雇用率を達成している企業であっても、2026年7月以降の新基準では不足が生じる可能性があります。
早めに自社の従業員数と必要雇用人数を確認しておくことが重要です。
2. 障がい者雇用で確認しておきたい制度
障害者雇用では、雇用人数だけでなく、対象となる障害者の範囲や算定方法、納付金制度などを理解しておく必要があります。
法定雇用率の対象となる障害者には、主に次の方が含まれます。
・身体障害者手帳を所持している方
・療育手帳または判定書等を所持している知的障害者の方
・精神障害者保健福祉手帳を所持している方
また、重度身体障害者や重度知的障害者、短時間労働者については、雇用率の算定において一定の特例があります。
実際の算定では、従業員の勤務時間や障害の区分に応じて確認することが必要です。
さらに、常用雇用労働者数が100人を超える企業で、法定雇用率を満たしていない場合には、障害者雇用納付金の対象となることがあります。
一方で、法定雇用率を超えて障害者を雇用している企業には、調整金、報奨金、各種助成金などの支援制度も用意されています。
障害者雇用は、法令遵守のためだけでなく、多様な人材の活躍や職場環境の改善にもつながる取り組みです。
制度の内容を正しく理解し、自社に必要な対応を整理しておきましょう。
3. 障がい者雇用を進める基本的な流れ
初めて障害者雇用に取り組む場合は、採用だけを急ぐのではなく、準備段階から定着支援までを計画的に進めることが大切です。
まずは、社内の理解促進から始めます。経営層や人事労務担当者だけでなく、配属予定部署の管理職や従業員にも、障害者雇用の目的や必要な配慮について理解してもらうことが重要です。
次に、社内業務の中から、障害のある方が担当できる職務を洗い出します。
既存業務の一部を切り出す方法や、定型的な作業から始めて徐々に業務範囲を広げる方法など、自社の実情に応じた職務設計を検討します。
そのうえで、雇用形態、勤務時間、賃金、業務内容、指導担当者、配属部署などを整理し、受入れ体制を整備します。
必要に応じて、バリアフリー化、作業環境の調整、就労支援機器の導入なども検討します。
採用活動では、ハローワーク、地域障害者職業センター、特別支援学校、就労支援機関などと連携することで、より適切なマッチングにつながります。
4. 採用時に求められる合理的配慮
障害者の採用選考では、求職者の能力や意欲を確認するとともに、職務遂行にあたって必要な配慮事項を丁寧に確認することが重要です。
たとえば、面接会場までの移動経路、試験場所のバリアフリー状況、説明方法、面接時間、筆談や資料の事前提供など、
障害特性に応じた対応が必要となる場合があります。
また、2024年4月1日からは、事業者による障害のある方への合理的配慮の提供が義務化されています。
企業は、過重な負担にならない範囲で、障害のある方が能力を発揮しやすい環境を整えることが求められます。
採用の判断にあたっては、障害の有無だけで判断するのではなく、担当予定業務との適性、本人の希望、必要な配慮、職場側の受入れ体制を
総合的に確認することが大切です。
5. 採用後の職場定着支援
障害者雇用では、採用後の定着支援が非常に重要です。
入社直後は、業務内容や職場環境に慣れるまで時間がかかることがあります。
そのため、すぐに成果を求めるのではなく、作業手順の明確化、定期的な面談、体調管理への配慮、勤務時間や業務量の調整など、
継続的な支援を行うことが必要です。
また、指導担当者を決めておくことで、本人が困ったときに相談しやすくなります。
配属部署の上司や同僚に対しても、必要な範囲で配慮事項を共有し、職場全体で支える体制を整えることが望まれます。
必要に応じて、ハローワーク、地域障害者職業センター、就労支援機関、ジョブコーチなどの外部支援を活用することも有効です。
障害者雇用は、採用して終わりではありません。長く働き続けられる環境を整えることが、本人にとっても企業にとっても重要です。
6. 企業が活用できる支援制度
障害者雇用を進めるにあたっては、企業だけで抱え込まず、外部の支援制度を活用することも大切です。
たとえば、障害者雇用相談援助事業では、障害者の雇入れや雇用継続に必要な雇用管理について、相談援助を受けることができます。
また、障害者を雇い入れる場合や、職場環境を整備する場合には、各種助成金を活用できることがあります。
採用前の準備、職場環境の整備、定着支援など、自社の状況に応じて利用できる制度を確認しておくとよいでしょう。
支援機関や助成金を活用することで、障害者雇用に取り組む企業の負担を軽減しながら、より実効性のある受入れ体制を整えることができます。
まとめ
2026年7月1日から、民間企業の障害者法定雇用率は2.7%へ引き上げられます。
これに伴い、障害者雇用義務の対象企業も、常用雇用労働者37.5人以上へ拡大されます。
企業は、現在の雇用状況を確認したうえで、必要な採用計画、職務設計、受入れ体制、定着支援の整備を早めに進めることが重要です。
障害者雇用は、法令遵守のためだけの取り組みではありません。
多様な人材が能力を発揮できる職場づくりは、業務の見直し、職場環境の改善、組織全体の働きやすさにもつながります。
まずは、自社の法定雇用障害者数を確認し、どのような職務や受入れ体制を整えられるかを検討するところから始めてみましょう。
社内制度の設計や就業規則の見直し、社内ルールの整備などについてお困りの際は、当事務所までお気軽にご相談ください。

